行政も力を入れ始めている、訪問看護ステーションの人材育成

行政も力を入れ始めている、訪問看護ステーションの人材育成

こんにちは、青井香里です。

本日は、訪問看護ステーションの訪問看護師の育成についてお話ししたいと思います。

近年、医療は「病院完結型」から地域全体で支える「地域完結型」へと転換が図られており、住み慣れた地域で自分らしい生活を最期まで送ることができるように、地域の受け皿となる在宅医療・訪問看護の充実が求められています。

訪問看護の需要増加に伴って、訪問看護師の地域で果たす役割も拡大し、「ニーズに対応できる人材の育成」が喫緊の課題となっています。

訪問看護ステーションは、小規模な事業所が多く人材育成制度の確立が難しい分野と言われています。

これから訪問看護ステーションを始める方も、訪問看護師の育成制度を独自に作ることは難易度が高く、行政や専門家などから育成制度の提供や、金銭面での支援を希望しているのではないでしょうか。

そこで本コラムでは、(1) 平成27年に神奈川県の訪問看護推進協議会(保健福祉局保健医療部保健人材課)が実施した、訪問看護ステーションにおける人材育成の調査で明らかになった実態や課題、

そして、その実態や課題を基に(2)令和3年3月横浜市が現場の訪問看護師、地域の医療機関、横浜市大、医師会と協力して作成した「横浜市訪問看護師人材育成プログラム」(看護実践能力評価指標【Career Development Program(CDP)】)を例に地域行政や病院、教育機関を含め地域全体で訪問看護師育成の制度が作られていく方向にあることを紹介します。

また(3)東京都が令和5年度から実施する「東京都新任訪問看護師育成支援事業」を例に地域行政において訪問看護未経験の看護師の訪問看護ステーションでの雇用や教育に対して人件費や育成費用を補助する制度が始まることも併せて紹介します。

訪問看護ステーションの新規参入者にとって、こうした制度を自社の状況に合わせて活用することで、訪問看護師の質の向上につなげることができるのは心強いことです。

(1) 訪問看護ステーションの人材育成の「実態」と「課題」

訪問看護ステーションの人材育成の「実態」と「課題」

まず、平成27年に神奈川県の訪問看護推進協議会(保健福祉局保健医療部保健人材課)が実施した、訪問看護ステーションにおける人材育成の調査で明らかになった「実態」や「課題」について紹介します。

訪問看護師ステーションの人材育成の「実態」

訪問看護師ステーションの人材育成の調査であきらかになった「実態」を項目ごとにお伝えします。

◆訪問看護ステーションにおける教育体制について

調査対象の約3割の事業所が教育に関する年間教育計画「なし」と回答。

年間教育計画「なし」と回答した率が最も高かったのは、開設年数「1年未満」及び、常勤換算3人未満のステーション。

◆キャリア開発支援のための面接実施について

約4割の事業所が「なし」と回答。

面接の実施 「なし」と回答した率が最も高かったのは、開設年数「1年未満」及び、常勤換算数3人未満のステーション。

◆新採用者の教育担当について

70.1%のステーションで、新しく採用した看護師の教育を管理者が直接担うとともに、スタッフへ現任教育も担っています。

管理者は「指導体制の充実」「目標設定・目標管理の支援」「研修受講支援」などに取り組んでいる一方で、「個々のキャリアや能力に応じた教育の実施」「共通のツールの活用」「意識・意欲への働きかけ」が困難とし、管理者が人材育成に関し、悩みや課題を抱えながら実施している現状があります。

◆教育方法について

半数以上のステーションにおいて「ケースカンファレンス」「職場外研修」「伝達講習」「同行訪問の振り返り」が実施され、質の向上に効果的と考えている項目の上位に同じ項目を回答していることから、質の向上に必要と思われる教育方法を積極的に実施しているといえます。

一方では、職場外研修に参加するために人員や時間が不足しているという実態もあります。

◆同行訪問について

訪問看護の特徴的な教育方法といえる「同行訪問」は、「3~4週間」かけて行い、「経験・能力に合わせて」実施されていることがわかりました。

しかし、小規模ステーションにおいては、教育的に必要とされる回数の同行訪問の実施は、人員的側面や経営的側面から困難であるとされています。

◆教育内容について

「皮膚・排泄ケア」「認知症看護」など対象として多いと思われる高齢者に関連した内容が多く実施されています。

「保険制度」「他職種連携」「マナー・接遇」や「倫理」の内容も多く実施されていて、利用者の住居に訪問するという、訪問看護特有の状況において重要な内容として捉えていることがわかります。

◆実施が難しいと項目について

「研究」「小児看護」「精神看護」「プレゼン テーション」「学生指導」が育成の実施が難しい項目でした。

「研究」「プレゼンテーション」ではスタッフの興味 や意欲や優先度が低いこと、「小児看護」「精神看護」「学生指導」では、対象の受入がないことが最も多い理由で、次いで専門性の高い看護領域で、講師の確保が困難なことであることがあげられています。

訪問看護師ステーションの人材育成の「課題」

訪問看護師ステーションの人材育成の「課題」

調査の「実態」から見えた訪問看護師ステーションの人材育成の「課題」は以下のような事柄があげられます。

① 常勤換算数の少ない、また開設間もない小規模ステーションでもスムーズできる、人材育成のマニュアルやネットワークなどを整備すること

② 管理者がステーションにおける人材育成について学ぶための教育支援をすること

③ 同行訪問による人材育成の効果の検証および同行訪問を教育的に取り入れる環境をつくること

④ 人員不足による、職場外研修への参加や同行訪問の妨げを解決するよう、人材の充足を図るための支援を行うこと

⑤ 専門性の高い資格を持った看護職員の配置と活用により訪問看護の質の向上をはかること

⑥ 訪問看護におけるケースカンファレンスのフォーマットの作成やファシリテーターを育成すること

⑦ 「小児看護」「精神看護」分野におけるステーション機能の拡大に向けた専門性の高い研修を企画すること

(2)「看護師人材育成プログラム」(看護実践能力評価指標)

平成27年に神奈川県の訪問看護推進協議会(保健福祉局保健医療部保健人材課)が実施した、訪問看護ステーションにおける人材育成の調査に続き平成29年度から横浜市の事業として「横浜市新卒等訪問看 護師人材育成プログラム策定検討会」が立ち上がりました。

そして「横浜市訪問看護師人材育成プログラム策定検討会」という名称に変更され、4年間にわたり検討が進められ、令和2年度に訪問看護師のキャリアラダー、学習支援体制を精選しました。

訪問看護師のキャリアラダー、学習支援体制

その後、令和3年に次のような「横浜市訪問看護師人材育成プログラム」(看護実践能力評価指標【Career Development Program(CDP)】)が作られました。

下記にて「横浜市訪問看護師人材育成プログラム」(看護実践能力評価指標【Career Development Program(CDP)】)を紹介します。

【Career Development Program(CDP)について】

訪問看護師は、新人から長い経験を持つ者まで様々です。

しかし、訪問看護の現場では、経験や力量の違いに関わらず、質の高い看護実践能力を求められます。

すべての看護師が質の高い看護を維持・向上し提供できるよう、看護師個々が看護実践能力の向上を図ることが必要となります。
そこでCDPを使用し、看護師個々の看護実践能力の強みや弱みを自身で確認し、さらに看護実践能力の維持・向上ができるよう作られている評価指標です。

評価指標は目指す共通の訪問看護師像として各段階の5つの能力について達成目標を掲げています。

【スタッフにとって】

新人や新卒では、訪問看護師になりたいと志望した後、どのような看護実践能力を必要とするのかを段階的にイメージできるように示しています。
 
キャリアを積んでいるスタッフでは、CDPと自己の現在の看護実践能力を見極め、今後の成長にどのような視点や学習が必要か考えられるように示しています。

【訪問看護ステーション管理者にとって】

 
スタッフ個々の看護実践能力がどの段階にあるのかが、視認できるよう示しています。

CDPでスタッフ個々が今後どのように成長してほしいかを、面談等を通じ相互に確認し、課題や期待について考慮できるもの になるよう示しています。

【医療施設等にとって】

訪問看護師の研修等を引き受けた際、訪問看護師が、CDP段階でどのような看護実践能力を持っているかを知る目安となり、研修等で受け入れる際の指標となるように示しています。

横浜市 「看護師人材育成プログラム」(看護実践能力評価指標【Career Development Program(CDP)】)の案内パンフレットはこちらです。

https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kenko-iryo/iryo/zaitaku/jinzaiikusei-program.files/0024_20210401.pdf

(3)訪問未経験看護師の採用と育成を支援する「令和5年度東京都新任訪問看護師育成支援事業」

東京都の訪問看護師育成の補助制度について紹介します

次に、東京都の訪問看護師育成の補助制度について紹介します。

これは訪問看護未経験の看護職を雇用し、育成を行う訪問看護ステーションに対し、教育体制の強化を図るための支援をすることで、訪問看護ステーションで働く看護職員の勤務環境の向上及び定着の推進を図り、在宅における療養環境の向上と地域包括ケアの推進を図ることを目的として実施される制度です。

令和5年4月1日から令和6年2月1日の間に未経験看護師を雇用し、補助要件を満たす訪問看護ステーションのに適用されます。
補助額は、

・雇用後2か月にかかる人件費1/2 上限2,400円
・外部研修受講経費1/2 50,000円/一人

詳細はこちらです。

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kourei/hoken/houkan/5ikusei.html

訪問看護ステーションの人材採用と質の向上つながるたいへんありがたい制度です。

まとめ

「団塊の世代」の全員が75歳以上の後期高齢者となる2025年を目前に、在宅医療がいっそう加速します。

これに伴い、訪問看護ステーションの需要が伸び、新規参入でも成長が期待できる分野です。

成長の秘訣は、訪問看護ステーションの看護師の量の拡大と、質の向上です。

本日紹介したように、訪問看護師の量の拡大、質の向上には、国や地域行政、専門家が施策として実施している制度があります。

自助努力と合わせて上手に活用することで、訪問看護ステーションを成長軌道に乗せることが期待できます。

投稿者プロフィール

青井 香里
青井 香里
横浜市生まれ。筑波大学創立者で3代目学長を大叔父に持つ。幼少期は父親の転勤にて海外で暮らし、インターナショナルスクールで多国籍の人々と触れ国際感覚を身につける。フェリス女学院短大卒業後、伊藤忠商事(株)東京本社に勤務。

2012年、日本医療の在宅移行に伴い「子供からお年寄りまで」すべての生活者が安心と幸福を実感できる地域社会づくりの必要性を痛感し、単身で福祉先進国であるスウェーデンとデンマークに飛び在宅看護、介護を学び、またニューヨークにて世界最大規模の在宅医療介護サービスの団体を視察。

日本の来たるべき時代における在宅医療は財政面も含め先進諸国に近づくという予測から、訪問看護ステーションの在り方を確立し、「訪問看護ステーション開業・運営支援」を開始。その支援先は民間企業から医療法人まで全国800社以上に広がり、地域医療と福祉の充実に貢献。

長年の運営支援の経験と実績に基づく、時代や地域に合わせた確固たる訪問看護ステーションの運営ノウハウを構築している。

訪問看護ステーションで独立起業を目指す看護師へ、新規開業の経営者とマッチングし、立ち上げから運営責任者として経営者の疑似体験をする仕組みを確立。

多数の民間経営者と看護師の独立開業マッチングを成功させる実績も持つ。

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