国の政策からみた「これからの訪問看護ステーション」とは(1)
こんにちは、青井香里です。
これまで訪問看護ステーションの運営支援を10年にわたり、全国で多数実践してきた経験から2023年からの訪問看護ステーション運営では、どのような特徴や方針が求められるかについて、「これからの訪問看護ステーション」をテーマにコラムを書いていきたいと思います。
訪問看護ステーションは、医療福祉事業の中で収益性、社会貢献性、将来性から最も有望視されている事業分野で、近年では異業種から参入する企業経営者様や、独立起業する看護師が増えています。
訪問看護ステーションは、今後も成長分野として注目され、異業種参入や看護師独立は多くなるでしょう。
そこで、これから訪問看護ステーションに参入される方々に本コラムが参考となれば幸いです。
初めに、これまでの訪問看護ステーションの変遷と、これから求められるステーションの特徴や方針ついて、「国の政策面」「採用戦略の側面」「営業戦略の側面」の3回に分けてお伝えしたいと思います。
2012年から2022年までの10年間の「国の政策」の変遷
1回目は、訪問看護ステーションにおける「国の政策面」について2012年~2022年までの10年間の変遷と2023年以降「国の政策」としてどのような訪問看護ステーションが求められているかについて書きます。
※2012年を起点にしたのは、在宅医療の幕開けの年といわれていること、また、下記グラフのように、横ばいだった訪問看護ステーション事業所が増え始めた年度だからです。
出典元:一般社団法人全国訪問看護事業協会「令和4年度 訪問看護ステーション数 調査結果」
2012年~2022年までの10年間の「国の政策面」変遷の状況をお伝えするにあたり、(1)2012年~2016と(2)2017年~2022年2つの期間に区分しました。
(1)2012年~2016年訪問看護ステーションにおける「国の政策」~ キーワードは“量の拡大”
2012年から医療の場を「施設(病院)から在宅(地域)へ移行する」との構想が加速しました。
この間、下記のような訪問看護を推進する制度もたくさん生まれました.
2012年「在宅専門看護師」認定開始
2013年「訪問看護アクションプラン2025」策定
2014年「機能強化型訪問看護ステーション」や創設医療介護総合確保推進法制定
2016年「訪問看護事業所の出張所 (いわゆる「サテライト」)」の設置が可能となる
訪問看護の政策の意図は、ステーションの量を増やし、機能を増やし2025年に備える「量の拡大」でした。
訪問看護ステーション数を2020年まで全国10,000拠点を目標として掲げていました。
(2)2017年~2022年訪問看護ステーションにおける「国の政策」キーワードは“訪問看護師倍増”
民間企業の訪問看護ステーション参入も相次ぎ、目標より早まりこの期間で全国10,000拠点に達しました。次なる課題は、訪問看護師を増やすこととなります。
厚生労働省の推計では「訪問看護師の需要は2025年に約12万人が必要になる」とされています。
しかし、2016年時点の訪問看護従事者は約4.7万人で年間約3000人程度の増加にとどまっています。このまま自然増に任せていては、25年には7.6万人程度で、およそ4.5万人の不足が見込まれます。
不足を補い、今後の需要に対応するためには、医療や介護施策の中で訪看を行う人材確保と支援策を明確にすること、さらに地方自治体の医療計画や介護保険事業(支援)計画などでも具体的な目標を定めるよう「国の政策」が動きました。
具体的な目標を定める「国の政策」の動きとして、2019年度に「訪問看護総合支援センター」構想がスタートしました。
「訪問看護総合支援センター」とは
訪問看護ステーションが看護師の確保をしやすいように支援するため、都道府県看護協会などが主体となり、県行政や関連団体と連携しながら訪問看護に関するさまざまな課題を一体的・一元的に解決する拠点です。
目的と機能は次のとおりです。
参照元:厚生労働省「第4回在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ 令和4年7月20日 参考資料2」
2023年以降、国はこれからどのような訪問看護ステーションを求めるのか
上述のようにこの10年で訪問看護ステーションは「量の拡大施策」「訪問看護師倍増施策」が「国の政策」として進みました。
そして、2023年以降「国の政策」はどの方向に向かって、これからどのような訪問看護ステーションを求めるのかについてまとめました。
ポスト2025年を見据えた医療・介護提供体制の姿を想定した来年2024年の医療・介護報酬のダブルの報酬改定は、国が求める訪問看護ステーションの特徴や方針に大きく影響します・
改定の審議はこれから始まりますので、現時点で詳細内容は未確定ですが、過去10年間の変遷や、財政状態、人口動態、昨年の「財務省財政制度分科会」での議事などから2024年の改定内容を考えたうえで、 2023年以降「国の政策」はどの方向に向かい、これからどのような訪問看護ステーションを求めるのかについてまとめました。
国の政策面から、これから求められる訪問看護ステーションの特徴や方針とは
2025年は団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、我が国が超高齢化社会になります。
団塊の世代の人口は、現在約800万人です。
厚生労働省の試算では、この方々が75歳以上になると、現在約1,500万人の後期高齢者人口が、約2,200万人に膨れ上がるとのことです。
ちなみに、一人当たりの医療費の国の負担は65~75歳と75歳以上では約4倍に膨らみます。
また、一人当たりの介護費の国の負担は65~75歳と75歳以上では約10倍に膨らみます。
このように、75歳以上になると一人当たりの医療や介護の国の費用負担が急増し、財政が危機状態となります。
そこで、2024年の医療・介護報酬のダブルの報酬改定はのポイントは
(1)「費用の削減」
(2)「制度の持続」そのための「効率化」
が大きなテーマとなると予想されています。
このことから、これから求められる訪問看護ステーションの特徴と方針は、
(1)多様な疾病に対応できる質の高い看護ケアができること
(2)自費・保険外サービスも積極的に展開すること
(3)重度化予防の取り組みを地域で発信していること
(4)地域包括ケアの中心的役割を果たせること
(5)医療機関や医師との連携に強い管理者やスタッフが配置されていること
(6)専門性の高い看護師を継続的に採用する仕組みがあること
(7)重度や障害のある方を受け入れるナーシングホームを併設する目標があること
となります。
まとめ
訪問看護ステーションの国の政策は「量の拡大」フェーズから「質の向上」へと変化しております。
また、国費の支出を抑えて持続可能な医療制度のためには、自費や保険外も取り入れていく必要があります。
ですので、これから異業種から参入する企業経営者様や、独立起業する看護師にとって、訪問看護ステーションの運営には、「質の向上」に向けさまざまな努力や工夫が必要となります。
努力と工夫次第では、競合他社を引き離し成長拡大ができるチャンスがあるとも言えます。
次回のコラムでは「採用戦略の側面」からこれからの訪問看護ステーションについてお伝えしたいと思います。
これからの訪問看護ステーションについて詳しくお聞きになりたい方は、お気軽にとお問い合わせください。
投稿者プロフィール
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横浜市生まれ。筑波大学創立者で3代目学長を大叔父に持つ。幼少期は父親の転勤にて海外で暮らし、インターナショナルスクールで多国籍の人々と触れ国際感覚を身につける。フェリス女学院短大卒業後、伊藤忠商事(株)東京本社に勤務。
2012年、日本医療の在宅移行に伴い「子供からお年寄りまで」すべての生活者が安心と幸福を実感できる地域社会づくりの必要性を痛感し、単身で福祉先進国であるスウェーデンとデンマークに飛び在宅看護、介護を学び、またニューヨークにて世界最大規模の在宅医療介護サービスの団体を視察。
日本の来たるべき時代における在宅医療は財政面も含め先進諸国に近づくという予測から、訪問看護ステーションの在り方を確立し、「訪問看護ステーション開業・運営支援」を開始。その支援先は民間企業から医療法人まで全国800社以上に広がり、地域医療と福祉の充実に貢献。
長年の運営支援の経験と実績に基づく、時代や地域に合わせた確固たる訪問看護ステーションの運営ノウハウを構築している。
訪問看護ステーションで独立起業を目指す看護師へ、新規開業の経営者とマッチングし、立ち上げから運営責任者として経営者の疑似体験をする仕組みを確立。
多数の民間経営者と看護師の独立開業マッチングを成功させる実績も持つ。
初めてメール致します。私は市中病院の在宅診療部で訪問診療医として勤務している者です。
現在、当院の訪問看護は「みなし訪問看護」であり、まだ「訪問看護ステーション」化はしていない状況です。
先日、ある管理者から「国の施策として、「みなし訪問看護」から「訪問看護ステーション」へ移行することが勧められている」と発言がありました。
これは事実なのでしょうか?私の調べた限り、そのような文書は見つけることができませんでした。
お忙しいところ恐れ入りますが、ご教示賜りたく思います。よろしくお願いします。