再び老衰で亡くなる時代に突入した理由 〜老衰の死亡率が第3位〜

再び老衰で亡くなる時代に突入した理由

こんにちは、医師の西嶌暁生です。

国の医療政策として病床数の削減や入院日数の短縮化が進み、在宅で療養される方、そして在宅で最期を迎える方が増えています。

最近では、無理な延命治療は行わずに自然な形で死を迎える尊厳死への関心が高まったり、住み慣れた環境での看取りを希望する方も増えているなど、死への意識や考えも変化しています。

「死」は誰にでも訪れるものでありますが、死因(亡くなった原因)は多種多様です。

これからの在宅医療を考えるためには「死因」とも真剣に向き合う必要があります。

本日は、時代とともに変わってきた日本人の主な死因について厚生労働省の統計データをもとに紐解いていきたいと思います。

死因は時代の変化を反映していています

人間は必ずいつかは亡くなりますが、死因の変化は社会や文明のリアルを反映しています。

近年は悪性新生物が38年間、連続で1位ですが、1980年(昭和55年)までは脳血管疾患が30年連続で死因順位の1位でした。

さらに昔は、結核が1位であり、過去115年間の死因順位1位の内訳は、結核39年、悪性新生物38年、脳血管疾患31年、肺炎9年となっています(図1)。

また、戦前は「肺炎」や「結核」を死因とする死者が圧倒的に多いです。

これらは、公衆衛生の整備が整っていなかったこと、医療技術がそれほど進歩していなかったこと、健康管理に関する世間の意識が低かったことなども原因として挙げられます。

現在の死因の内訳

2018年(平成30年)の死亡数を死因順位別にみると、第1位は悪性新生物で 37 万 3547 人、第2位は心疾患(高血圧性を除く)で 20 万 8210 人、第3位は老衰で 10 万 9606 人、第4位は脳血管疾患で 10 万 8165 人となっています(図2)。

悪性新生物が全死亡者に占める割合は27.4%であり、全死亡者のおよそ 3.6 人に1人は悪性新生物で死亡していることになります(図2)。

老衰が死因第3位へ増加

近年、特定の死因で説明できない「老衰」が増加しています。

「老衰」とは厚生労働省の規定では「高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用いる」とあります。これらは、高齢化社会の急激な進行と、医学の発展による平均寿命の延長が原因と考えられます。

実は戦前の方が「老衰」の死亡率は高かった

ただし、実は、「老衰」の死亡率は現在よりも戦前の方が高かったです。

これは、そもそも平均寿命が短かったため、「悪性新生物」や「心疾患」を発症し、直接的な死因として亡くなるより前に、老衰で亡くなってしまう人が多かったことが原因の一つです。

また、当時の医療技術では具体的の死因の判断ができず、老衰とされた事例もあったと思われます(図3)。

性別・年齢階級別にみた主な死因の構成割合

性・年齢(5 歳階級)別に主な死因の構成割合をみると、5~9歳では悪性新生物および不慮の事故、10~14 歳では悪性新生物および自殺が男女とも多く、男は15~34歳で自殺および不慮の事故、35~44 歳で自殺および悪性新生物、45 歳以降では悪性新生物および心疾患(高血圧性を除く)が多く、女は15~24歳で自殺および不慮の事故、25~54歳で悪性新生物および自殺が多くなっています。

そして、年齢が高くなるにしたがって、悪性新生物の占める割合が高くなり、男では65~69歳、女では55~59歳がピークとなっています。

その後は、悪性新生物の割合は減少し、かわりに「老衰」と「心疾患」の死亡率が増加してきます。

なお、1歳未満の乳児死亡数の死因別構成割合では、男女とも「先天奇形,変形及び染色体異常」 の占める割合が多くなっています(図4)。

さいごに

本日は、時代とともに変わってきた日本人の主な死因についてお伝えしました。

医療の発達、栄養状態や衛生環境の改善などによって、人生100年時代を迎えています。

全ての人は必ず亡くなりますが、その人らしく最後まで活き活きと生きてもらいたいです。

私は、人の死と真摯に向き合ってこそ、質の高い在宅医療サービスが提供できると考えています。

投稿者プロフィール

西嶌 暁生
西嶌 暁生
医学博士、形成外科専門医。株式会社ZAI 代表取締役社長

2013年より筑波大学の形成外科で、創傷治癒、外傷、再建、美容外科及び美容皮膚科を専門とする臨床医として従事。その後、「恵比寿形成外科・美容クリニック」の副院長を経て、2023年7月に「恵比寿こもれびクリニック」を開院。肌細胞の再生をキーワードに、美と健康のパーソナルドクターとしてオーダーメイド医療を提供している。

【資格】:医師、医学博士、形成外科専門医、認定産業医、MBA、JDLA認定E資格
【専門】:形成外科、美容外科、きず跡修正、医療レーザー(シミ、シワ、たるみ)、目周りの手術、フェイスリフト、脂肪吸引、メンズ美容、医療AI

《著書》
だから夫は35歳で嫌われる メンズスキンケアのススメ 光文社
「無駄なケアをやめる」から始める美肌スキンケアの新常識大全 宝島社

《メディア》
夕刊フジ「50歳からでも遅くはない 誰でもできる男のアンチエイジング術」毎週月曜日に連載中
オレンジページ、美的、女性セブン、CanCam等
フジテレビ「ポップUP!」出演
bayfm「MOTIVE!」出演

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